2023年7月、羽田空港第2ターミナルの国際線エリアが、約3年ぶりに運用を再開してから、2年の月日が経ちました。多くの人にとって、そのニュースは空港機能の賑わいを意味したかもしれません。しかし、当時の私は、空港内の物流業務として、その場所に勤務していました。特別な成果や経験をしたわけではありませんが、そこには、東京での思い出が詰まっています。
現在の羽田空港は、以前の賑わいを取り戻し、国際線ターミナルも活気に満ち溢れています。しかし、私が初めて「国際線ターミナル」としてその場所を認識したのは、まだコロナ禍の余韻が色濃く残る時期。
時は、2023年2月にさかのぼります。
「なぜ?」と「何がある?」が詰まった、巨大なシャッターの向こう側

私が羽田空港で働き始めた2023年2月頃、第2ターミナルの端には、見慣れない巨大なシャッターが降りていました。そこは普段、我々が通るであろう通路の一部でしたが、シャッターの奥に何があるのか、なぜ閉ざされているのか、当時の私は全く知りませんでした。ただ漠然と「この先に何があるんだろう?」と感じていたことを覚えています。情報社会の現代で、自分はこれほどまでに無知だったのかと、今となっては少し不思議に思えます。
そんな疑問を抱えながら半年近くが経った2023年7月半ば。

その巨大なシャッターは突如として取り払われ、目の前には広々とした国際線エリアが姿を現しました。一瞬で、これまでの「なぜ?」が解けたあの感覚は忘れられません。しかし、そこに広がっていたのは、想像していたような喧騒ではなく、驚くほどの静寂に包まれていました。
運用が再開されたとはいえ、当時の国際線はまだ本格的に動き出しておらず、利用客はごくわずか。第2ターミナル全体では徐々に人の波が戻りつつありましたが、この国際線エリアだけは、まるで時が止まったかのように静まり返っていました。
私だけの特等席だった、再開直後の国際線待合席

私は当時、空港の裏方で物流業務に携わっていました。膨大な荷物を運び、賑わいを増す空港内を行き来する日々。人手も少なく、契約社員だった私は、職場での疲労に加え、通勤時の東京の通勤ラッシュにも疲れ切っていました。そんな日常の「つかの間の休息」として、昼休みになると必ずこの静かな国際線に足を運びました。

窓から見える景色は、まさに「空の秘密基地」。飛び立つ飛行機や、駐機する機体がよく見え、ぼーっと眺めているだけで心が落ち着きました。その空間は、まるで私だけの特等席。人目を気にすることなく、ただ過ぎゆく時間を楽しみました。

待合室からの景色では、駐機する飛行機を目にしました。便も少なく、ゆったりとした飛行機の日常が流れていました。

東京方面からは、高層ビル群が遠くからでもはっきり見えます。よく見るとスカイツリーもみれて、東京という大都会で生きている実感を感じていました。

外を眺めていると、離陸する飛行機を何度かみかけました。コロナ前より減った離陸のなかで、まだまだ先がわからないなか離陸する飛行機たちは、ふんばる希望の象徴のように感じていました。

当時の国際線エリアでは、ちらほら人の出入りはありました。
再開を駆けつけて、視察に来る一般の方も数人ほどみかけましたが、まだまだ賑わっている感じはありませんでした。

そして、数人のスーツ姿のお偉いさん方が視察に来ていたり、グランドスタッフやCA候補生の方々が、まだ慣れない様子で建物や周囲の状況を確認したりしている姿をよく見かけました。その様子から、このエリアが2020年3月にわずか一週間あまりしか稼働せず、コロナ禍で長らく封鎖されていた「幻のターミナル」だったのだと知りました。
私たちが空港で目にするCAさんをはじめ、空港勤務の方たちは、いつも笑顔で私たちに接してくれます。しかし、この場所で、彼らがフライトの準備や訓練に真剣に取り組む「裏の世界」を見た時、その笑顔の裏にはどれほどの努力と大変さがあるのか、痛感しました。

その大変さを決して表に出さず、プロとして人に接する姿は、私にとって大きな励みとなりました。人手不足で疲弊していた日常の中、私も最後まで自分の仕事を頑張ろうと決心できた、大切な思い出での場所となりました。
2025年現在、そしてあの場所が教えてくれること
あれから2年。現在の羽田空港第2ターミナル国際線は、当時に比べると賑わいを見せています。多くの航空会社が路線を拡大し、ラウンジも再開・拡張され、国際線の出発便は増える一方です。一部の床が青く変わっていたり、周辺のテナントのこと以外は、造りは当時の写真のままでしたが、そこに流れる空気は全くの別物になっていました。それは、まさに東京から日本が再び世界と繋がり始めた象徴のように感じます。
最新の様子は、ANA公式YouTubeチャンネルの国際線紹介動画からも見ることができます。
私にとっての羽田空港第2ターミナル国際線は、あの再開直後の静かな場所こそが、東京の喧騒から離れ、自分自身と向き合った場所でした。
賑わう今、あの時の静寂が教えてくれたこと。
空港は常に混雑しているが、ここでは少し考える時間ができるかもしれません。